副社長は溺愛御曹司
「いよいよあいつも、しっかり副社長だもんね。神谷ちゃんのおかげかなあ」
「まさか、そんな」
和之さんと同じようなことを言うなあ、と思いながら、ふと気がついた。
この兄弟、声だけは似てる。
体格が違うせいか、低さや太さはばらばらだけれど、独特の柔らかい響きを持つ声質がそっくりだ。
一番低くて男らしいのがヤマトさんだな、とひとりで納得していると、延大さんが腰を上げながら笑った。
「これからも、あいつをよろしくね」
ズキン、と胸が痛んだ。
はい、と口では言いつつも、つい視線の置き場に困って、うつむいてしまう。
申し訳ありません、お約束できません。
私はここを離れて、ずっと夢だった開発に行かせてもらうんです。
そしてヤマトさんも。
それをお望みなんです。
いっそ、自分にはきっと秘書のほうが向いていると思えたら、楽だったのに。
ヤマトさんと人事部長の話を聞いたら、欲が出てしまった。
あんなことを言われたら。
ヤマトさんに、あんなことを言われたら。
開発で、自分を試したくなってしまう。
けど開発に行ったら、副社長なんて、おいそれと会ったり話したりできる身分ではなくなる。
私、そんなの、耐えられるんだろうか。