花送り―宗久シリーズ番外―
先生の呼吸、先生の温度、先生の存在が間近すぎて……。



私の心を、知られてしまいそうで……。







「綺麗な花だよね、紫陽花。僕は草花が好きなんだ」




爺さん臭いよね?

そう言い、照れた様に笑う先生からは、微かに花の香りが流れてくる。









そんな事ないよ。




そう言えたならいいのに。



声が、出ない。










先生は、芸術家みたいな細い指を伸ばして、軽く紫陽花の花に触れた。




虹色の花びらは、まるで先生に触れられた事を喜んでいるかの様に、たおやかに揺れる。









声が、聞こえそうだと思った。







花の声が聞こえそう。










「君はいつも、教室の隅に居るね?」



先生は、心地良いバリトンの声で話す。




「気になっていたんだ。淋しそうだなって」









…………先生?










先生が私を?









…………気になっていた?








ホント………?


夢じゃ、無い?




それとも聞き間違い?





先生…………?





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