Blue Note ― ブルーノート

No.0

辺りを探りながら、ゆっくりと歩を進める。


数歩進んだところで、アノンは何かに躓(つまず)いた。


近くにあった薄水色のゴミ箱をなぎ倒しながら、なんとか踏み止まる。


足に、ヌルッとした液体の感触がした。雨水ではない別の液体。


足首に付着したそれを、指で拭(ぬぐ)った。指を顔に近づける。予想はしていたが、やはり液体の正体は血液だった。


では一体、誰の?



振り返り、慣れない暗闇に目をこらす。


すると信じられない光景が目に飛び込む。
人だ。人が血まみれで倒れていた。


壁に背中をもたれ、狭い通路に足を投げ出していたそいつは、まだ少年だった。
ボロボロの布きれに包まれた体は、酷く青ざめていた。


屈んで、少年の息を確かめる。死んではいない、気絶しているようだった。



着ている布きれの半分は血で赤く染まっている。 死に至るほどではないが、結構な量の出血をしていた。



ほって置けば確実に死ぬだろう。 助けを呼ばなければ、と腰を上げたその時だった。



物凄い力で手首を掴まれた。少年は気絶していなかったらしい。


少年は自分の口元にアノンの耳を無理矢理近づける。



「余計なことをするな」



少年の掠れた声が伝わる。一瞬、状況が飲み込めずに茫然としていたが、アノンは直ぐに話を切り返す。



「余計なことって……あんた、このままじゃ死ぬぞ」

「いいから、俺に関わるな」

「そんなこと言ったって、ほって置けるわけないだろ。近くに治安局の人間がいたから、今から呼んでくる」

「やめろ」



手首を握っていた手の力が強くなる。アノンは思わず小さい悲鳴を上げた。



だが直後、アノンの手首から手を離し、少年は数回激しい咳を繰り返し吐血した。



「大丈夫か?」



慌てて少年の顔を覗き込む。 目は怯え、うっすら涙を浮かべていた。血のように赤いその瞳を、美しいと思った。



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