Blue Note ― ブルーノート
アノンは強引で、礼儀を知らない治安局の人間達が嫌いだ。できれば、あの制服すらみたくもない。



年寄りや子供に対しても情け容赦ない、市民の平和がどうのこうのと騒ぐ奴らの言い訳は、猿の鳴き声よりも酷く耳障りだ。



前に一度、公園で治安局の人間が子供を叱りつけていたのを見た事がある。


その日は暑い夏日で、子供達が噴水で水遊びしていた。
すると治安局の人間がやってきて「他の人に水がかかったら迷惑だ」と注意した。


確かに局員の意見には一利あるが、その時公園内にはアノン達以外に誰もいなかったし局員のあれは注意というより脅(おど)しに近かった。


他にも、ゴミ箱に空き缶を捨てた老婆に、缶は潰してから捨てろ、と必要以上に怒鳴りちらし、終いには他の潰していない空き缶も 潰せ、などと言い出し、老婆に無数の空き缶を潰させようとていた。




奴らは、力や発言力のない子供や老人をわざと狙っているのだ。 卑怯かつ窮(きわ)まりない。







今日はついてないな、とぼんやり思いながら、アノンは表通りよりも一段と狭く、暗い路地裏を走った。


空を見上げる。 先ほどの霧雨が嘘のように、雨粒は当たると少し痛いくらいに大きくなっていた。


アノンは走るのをやめて歩きだした。 ここまで濡れれば、もう雨があたろうが水の中に飛び込もうが、状況は同じだろう。


家だってもう近くだし、急ぐこともない。



だが歩き始めて数分、アノンは妙な違和感を感じて足を止める。


辺りの臭いが変わった。


雨に紛れていても、その臭いだけは不思議と判った。 鼓動が速まる。何度嗅いでも慣れない、この不気味な臭い。



血だ、血の臭いだ。





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