少年少女と恋愛観察
「っは…!」
あんまりな危機一髪で、冷や汗がドッと湧き出す。
慌てて手摺りに掴み、姿勢を正す。
「すっ、すいません…!」
土下座でもしそうな勢いで腰を折ると、頭上で聞き慣れた男の声が振って来た。
「おいおい稲葉寧~、何してんだ全く。
俺じゃなきゃすっ飛んでたぞ~?」
私は息を吸い込む。
この男…
私をフルネームで呼ぶこの男は、
数学教師の四辻先生で間違いないな…。
私は一気に気力を失い、ダルそうに顔を上げて、適当に笑みを作る。
「きゃっ先生!
ごめんなさぁいっ!
私ったらぁ~!テヘッ?」
おどけて甘い声を掛けると、四辻は顔を顰める。
「…何言ってんだ?稲葉寧。
あれ?お前、稲葉寧だよな?」
あまりの豹変ぶりに、どうやら頭の鈍い彼は付いて来れないようだ。
「先生、女性にモテないでしょうねぇ。
顔とスタイルが良くったって、先生ほど鈍かったら女性は呆れちゃいますよぉ!」