トールサイズ女子の恋
 水瀬編集長と手を繋いだまま百貨店が立ち並ぶ大通りを過ぎて、都内で有名な国立公園近くまで来た。

「あそこに国旗が見えるでしょ?あれが今から行くお店で、いきなり堅苦しい雰囲気のお店よりリラックスが出来るかなって思ったんだ」

 お店にはイタリア国旗が掲げられ、テラス席には現地の人たちがワインと料理で楽しく話をしている。

「こうした雰囲気、好きです」
「俺も」

 2人で微笑み合ってお店の中に入ってウェイターに案内されたのはテーブル席で、私は奥の席で水瀬編集長は向かいの席に座った。

「アラカルトを頼んじゃうけど、駄目な食べ物はある?」
「食べ物の好き嫌いはないです」

 水瀬編集長はスッと手を上げてウェイターを呼び、メニュー表を見ながら料理を選ぶ。

 一度退いたウェイターが戻ってきて、グラスと食前酒をテーブルに置くと静かに食前酒としてのスパークリングワインを注いで退いた。

「先ずは、お疲れさまだね」
「はい」

 静かにグラスをかかげて一口飲むと、口の中に炭酸とアルコールが広がり、此から始まるディナーの楽しみのアクセントになった。

 そして水瀬編集長が選んだ料理はどれも美味しくて、夢中になって食べる。

「美味しい?」
「はい!どれも美味しくて、どんどん食べちゃいます」
「良かった」

 水瀬編集長はにこりと笑みを浮かべてワインを口に含む動作が、いちいち絵になっている。

 ディナーに誘われた時はどうしてだろうって思ったけれど、美味しい食事とお店の雰囲気も手伝ってか、変に緊張しないで食事をすることが出来た。

 そして楽しい時間はあっという間でお会計をして外に出ると、冷たい風がワインを飲んだから火照っている頬を撫でて心地いいな。

 食事の時間ってなんでこんなにも早く終わっちゃうのか不思議で、また明日からいつものように総務部と編集部という関係に戻るんだよね。

「星野さんは、まだ時間的に大丈夫?Barでもう少し飲まない?」
「はい!」

 1人で名残惜しい気持ちでいたけれど、自然と手を繋いで、水瀬編集長に連れられてBarへと向かい始めた。
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