キスマーク
「さっさと切って、医者一人に絞ったほうがいいよ。印象は良かったんでしょ?常務の紹介なら素性だって確かだし」
「……」
「二兎追うものは一兎も得ず、だよ」
真面目な顔で麻里が言う。
こんな風に麻里に忠告されるのって珍しい。何時もは大概逆が多いのに。
入社してからの付き合いとはいえ、会社で顔をあわせてプライベートでも会ってたら、何となく察してしまうのかな、なんて思う。
「まぁ“仮に”の話だけどね」
「仮に、ね。胆に命じておきます」
「過去にそれで失敗した経験あるからね……私」
「え、そうなの?」
「大学入学して間もない頃ね。過ぎたハナシよ……」
「今度呑みながら聞いてあげる」
「いいってば……もう」
そんなやりとりを普通にしながらも、真顔で麻里から言われた言葉が心に響いてる。