ダイス



「そんなことがあったんですね」


深水の話を一通り聞き終えた紗江子が小さく息を吐いた。


過去に少しでも好意を抱いた女にこんな話を聞かせた理由は何なのだろう。


妻を少しも好きではないと言い訳したいのか、それとも相手が未だに自分に微かな好意を抱いていると知っていて、俺に構うなと言いたいのか。


そのどちらでもない気がした。


ただ、自分の抱えたことをこの女に聞いて欲しかった。


単純にそれだけなのだろう。


「それで、新井のことは調べたんですか?」


紗江子の問いに深水は頷いた。


事件の後、独自で新井太一という人間を調べたのだ。


彼が本当に存在しない人間なのかどうか。




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