ダイス



「たまたま、会話を交わしていて、彼に戸籍が存在しないことを知った。何でだったかな。そんなことは忘れたけど。そして、そんな人に出会ったのは初めてで、つい、自分もだと言ってしまった」


なかなか有り得ない共通項を見付けた時、人間というのは判断が鈍る。


それは自分自身が明良に対して感じたことなので、手に取るようにその感覚は分かる。


「すると、彼は嬉しがって、自分は本当は新井太一という名前なのだと教えてくれたんだ。多分、同じ人間である俺に心を開いたんだと思う。彼はまだ幼かったから」


新井は二十二歳。


確かにまだ幼いと言えるかもしれない。


「それで、残してきた恋人がいることも話してくれた。その恋人の元に戻りたいけど、そうはいかないことも。理由を訊くと、それも簡単に話してくれた。口が軽いのか、それとも俺なら大丈夫だと思ったのか」


恐らく、後者だろう。


実際、新井の話を聞いて、相手が信じる可能性すら低い。


それに抱えきれなかったのかもしれない。


自分には罪はない。


幾らそう思ったところで、抱え込むのは辛かったのかもしれない。



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