冷たいアナタの愛し方
先を歩いていたジェラールは、肩越しに後ろを歩いているルーサー…いや、オリビアを盗み見た。


…お嬢様だというのは本当の話だったらしく、見事に亡き母親のドレスを着こなしてしずしずと歩いている。

万が一似合っていたとしても、馬子にも衣装だと一蹴して笑い飛ばしてやろうかと思っていたが…何故かそれができなくてむっつり黙り込んでいた。


「特別席ってどういう席なの?」


「コロシアムの2階にあるんだけど、闘技場にせり出してるから戦ってる様子を近くで見ることができるんだ。大抵貴族とか一般階級じゃない連中が好んで使ってるみたいだけどね」


「へえ。闘技場…誰と誰が戦うの?」


「奴隷と魔物だ」


それに答えたのは少し困った様子で笑っているルーサーではなく、前を歩いていたジェラールだ。

脚を止めたオリビアに嘲るような笑みを向けて人差し指でネクタイを緩めると、窓から空を見上げて瞳を細めた。


「奴隷って…魔物って…」


「勝ち抜けば奴隷という最下級の地位から解放されて剣闘士になれる。金も女も思いのまま。だが魔物も恐ろしく強い。大抵は…死ぬことになる」


――もっと穏やかなものを想像していたオリビアは、命と命のせめぎ合いを特別席から楽しむという感覚を楽しんでいる自分自身を想像できず、戸惑ってルーサーを見上げた。


「まあそういうこと。レディーが好んで行く場所じゃないよ」


「でも…ウェルシュが居るんでしょ?」


彼らに内緒で密談をするには持って来いの場所だ。

またジェラールもオリビアと同じ考えだったので、再び歩き出して鼻を鳴らす。


「あいつはコロシアムがお気に入りだ。…あいつを王位につかせるわけにはいかない。父上も母上も…望んでいなかった」


反抗するなら、逆に暗殺してもいい――

そんな考えを持っていることをルーサーにも打ち明けず、ジェラールの脚はコロシアムに向かって動き続ける。
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