冷たいアナタの愛し方
ルーサーが奴隷を連れて帰ったのはこれがはじめてだった。

高官や官僚はルーサーに道を譲る度に頭を下げたが、ローブ姿でフードを深く被ったまま俯いている奴隷…オリビアの姿に注目が集まっていた。

露出している手や頬は煤で汚れているし、お粗末にも綺麗とは言い難いが――顔は見えずともどこか目を引く女らしき奴隷がルーサーとどう関係があるのか聞きたくとも、ルーサーは王子という立場。

そうやすやすと話しかけていい相手ではない。


「ルーサー様!お帰りをお待ち申し上げておりました!」


「ハーマン宰相…ウェルシュはどこに?」


「…王の離宮でお休みになっておられます。…あそこは陛下しかお使いになってはいけないのに…」


「すでに王でいる気分なんだろうね。で、ジェラールは?」


「は?ご一緒では…ないのですか…?」


バロック様式の内部にバロック建築――床はよく磨かれた大理石が敷き詰められて、燭台ひとつでも目玉が飛び出るような値段のものに違いない――

オリビアは注意深く上目遣いで城内を観察しつつ、ハーマンの目から逃れるようにルーサーの背中に隠れていた。

そして垂れ目で怖い人がジェラールという名だと知って小さくその名を呟いてみる。


「戻ってないのか…。兄上たちは?」


「皆さま任地にお戻りになりました。…ウェルシュ様から暗殺されるのでははないかと怯えておられたので、もうここにはお戻りになられないかと…。ルーサー様…それは奴隷ですか?」


見つかるのは時間の問題だったのだが、ルーサーに腕を掴まれてハーマンの前に連れ出されたオリビアは、顔を上げないまま深々と頭を下げた。


「ローレンで拾ってきた奴隷なんだ。最初は小間使いで、慣れたら僕かジェラールの身の回りの世話を任せる。あまり厳しくしないように」


ジェラール派の急先鋒である白髪の好々爺は、目を丸くして顎に手をかけてオリビアの顔を覗き込もうとした。


「ほう…あなた様が奴隷を?はじめてのことですな、ではあまり厳しくしないようにいたしましょう。女、こちらへ。案内をする」


「僕もついて行くよ」


ハーマンの小さな目がまたまん丸になった。
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