冷たいアナタの愛し方
掃除なら常日頃心がけて自分でやっていた。

いつかはお嫁に行って城から出て行こうと思っていたので苦手な料理以外はそつなくこなしていたつもりだ。

窓ふきやモップで床を拭いたりしているうちについ熱中してしまい、気が付くと夕方になっていたのだが、ルーサーに肩を叩かれるまで気づくことはなかった。


「オリビア…じゃなかった。リヴィ、今日はこの辺にしておこう。でないとまたこうして呼び出す機会が減るから」


「あ…そうね、じゃあ私戻らないと」


手もいい感じに汚くなって、どこからどう見ても今自分は奴隷に見えるはず。

鏡の前に立ってみたオリビアは、髪の色も変わっていつもの自分ではない自分の姿に肩で息をついた。


「目の色だけは変えることができなかったけど…こんなに汚れてたら誰だって私が奴隷に見えるはずよね」


「うん、ぱっと見はそうだけど…よく見るとやっぱり気品があるし可愛いし、あまり顔は上げずにフードを深く被るようにね」


――ルーサーは誉め上手だ。

しかも物腰もやわらかいし性格は優しいし、文句のつけようがない。

金の髪と青い瞳もとても綺麗でまた見惚れそうになったオリビアは、掃除用具をロッカーに戻すとまたルーサーに先導されてガレリア城へと戻った。

やはり王子のルーサーと歩いているとどうしても注目されがちなのでずっと俯きながら、階段ではない緩やかなスロープを上がって上へ上へと進んだ。


「最上階はプライベートルームだけど、その下は会食の間といって、亡き陛下が多忙の中でも食事だけは家族で集まるという決まりごとを作ってたから、今もそうしてるんだ」


「へえ…。私は地下で食事の用意とかしなくていいの?」


「今日は特別に案内するよ。明日からは君には色々な仕事が待ってるから。…その綺麗な白い手が荒れてくると思うと本当に居たたまれない…」


「心配してくれてありがとう…」


優しい言葉をかけてくれるルーサーに励まされて会食の間に着いたオリビアは、ここに現れるであろうウェルシュとジェラールに会えることを楽しみにしていた。

だがこの日…

2人は会食の間に現れることはなかった。

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