冷たいアナタの愛し方
扉がゆっくりと開いてゆく。

オリビアはナイフとフォークに伸ばそうとしていた手を止めて、皆と同じように扉を見つめた。

そして――


白い鼻先が見えた時、まさかと思って両手で口元を覆った。


「そんな…どうして…!」


「ジェラール!ジェラールじゃないか!!それに……」


白い鼻先の主――シルバーは身体全体で扉を押して開かせると、背中に乗せてぐったりしていた男を身体を揺すって起こそうとした。

そしてオリビアを見つけると勢いよく尻尾を振りまくったが――オリビアが唇に人差し指をあてて小さな声で“そのまま”と言ったので、大人しく傍に伏せをした。


だがシルバーの巨体は明らかにただの犬ではなく、魔物に見える。

衛兵たちが次々と会食の間に駆け込んでくると、シルバーを取り囲んで槍や剣を向けた。


「ルーサー…あの人が…ジェラール?でも…髪の色が…」


7年前会った時は、ジェラールは金髪だったはず。

だが…ぐったりしている男は、どう見ても銀髪――


息を呑んで見守っていたウェルシュがそんな、と呟いて顔面蒼白になると、じりじり後ずさりをして壁にどんとぶつかった。


「じぇ、ジェラール…!お前…生きて…」


「ひどい傷だ…!誰かジェラールを離宮に!医者も呼んで!」


担架を待つよりもシルバーの背中に乗せて運んだ方がいいと判断したルーサーは、シルバーの頭を撫でて呼びかけた。


「僕について来てほしい。わかるね?」


「わふっ」


「リヴィ、君もついて来て。ジェラールの離宮もきっと散らかってるから掃除を頼みたいんだ」


「ええ、わかったわ」


ジェラールを支えながら会食の間から出ようとした時、ようやく我に返ったウェルシュが悲鳴に近い声で呼び止めようとした。


「ま、待て!リヴィ、お前には用がある!」


「いやよ、私には無いわ。ルーサー王子、行きましょう」


つんと顔を背けて出て行ったオリビアの背中に再び見惚れるウェルシュ。


「なんて気の強い女なんだ…。……お、俺好みだ…」


会食の間を出たオリビアは、ちらちらとちら見が果てしないシルバーの尻尾を撫でてやって再会を喜んだ。
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