冷たいアナタの愛し方
「………おい…」


誰かの声が聞こえたが、心地よい睡魔に身を委ねていたオリビアは、まだ眠っていたくてその声を無視した。


「…おい…そこの…女…」


「ん………何よ…」


何度も呼びかけられてさすがにむっとしながら身体を起こすと、すぐにシルバーが立ち上がって頬をぺろぺろ舐めてくる。

頭を撫でてやりながらベッドの方を見たオリビアは、ジェラールの目が開いて苦しそうにしているのを見て目を擦りながら枕元にある椅子に座った。


「やっと起きたのね。熱はどう?」


「触るな」


額に手を伸ばそうとすると冷たい声で手をばしっと払いのけられてむっとしたオリビアは、ルーサーの姿を求めて部屋を見回した。

1階に行っているのかその姿はなく、その場を離れて1階に降りようとすると、ジェラールに呼び止められた。


「誰の許可を得て俺の部屋に入って来たんだ?奴隷風情がふざけるな」


「…はあ?あなた…私のこと覚えてないの?」


目を丸くして問い返すと、ジェラールは何のことだかわからないといった表情で眉を潜めて不快げな顔をした。


「お前のことなんか知らない。ルーサーがお前をここへ入れたのか?勝手なことを…」




……名前も聞かれず、ましてや自分がオリビアであることに全く気付いていないジェラールの態度にかなりむっとしたオリビアは、くるっと背中を向けて今度こそ部屋を出て行こうとした。


「おい、どこへ行く。そこの水差しを取れ」


「いやよ、自分で取って」


「なんだと?奴隷のくせに…」


最後まで聞かずにばんっと大きな音を立ててドアを閉めたオリビアはいらいらしながら階段を駆け下りて、キッチンに立ってコーヒーを飲んでいたルーサーを見つけて言い放った。


「なんなのあの人!私のこと奴隷って言った!」


「おはよう。まあ立場はそうだけど…オリビアだって名乗った?」


「…いいえ。むかつくから気付くまで言わないでおこうかと思って。ああむかつく!」


地団駄を踏むオリビアについ頬が緩んだルーサーは、ジェラールが意外と鈍感なことに肩を揺らして笑ってしまった。
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