冷たいアナタの愛し方
ジェラールは考えていた。

あの女奴隷はローレン出身で、歳の頃は恐らくオリビアと同じくらい。

ということはスクールに通っていれば顔を見たこともあるだろうし、あの容姿ならばかなり目立ったはずだ。

あと、あのお嬢様らしからぬ性格も。


「…おい、女奴隷!上がって来い!」


なんとかドアまで歩いて行って大声を上げると、階段まで駆け寄ってきた女奴隷…ジェラールが未だ正体に気づいていないオリビアがむっとした表情で見上げて来た。


「何よ、私の名前はリヴィだって言ってるでしょ」


「お前に話がある。早く上がってこないと殺すぞ」


「…あの人っていつもあんななの?」


「うん、そうだよ。残念でしょ」


自分には食ってかかるくせにルーサーとは親しげな様子で、オリビアと同じようにむっとした表情で見下ろしたジェラールがベッドに戻って待っていると、オリビアが部屋に入って来た。

手にしているトレイには昼食が乗せられていたのだが、オリビアはそれをつまみ食いしながら椅子に腰を下ろす。


「…それは俺のだろうが」


「ちょっと位いいでしょ。で、何の用?身体なら拭かないわよ」


「……お前はオリビアを知っているか?」


――馬鹿な質問をされた。

オリビアが呆れた顔をすると、ジェラールは人差し指と中指で自らの両目を指してみて身を乗り出した。


「お前のような金茶の瞳をした女を知らないか。髪も同じ色で、恐らくそれなりに……それなりに………いい女のはずだ」


「はあ?あなた…馬鹿なの?馬鹿なのね?」


…全く気付いていない。

悲しい位に鈍感で、軽蔑の眼差しでジェラールを見つめると、さっきまで掃除をしていたのですでに薄汚れたローブについていた埃を払いながら答えを待っているジェラールを見つめ返した。


「知ってるわよ」


「なに?どこで見た?ガレリアと蛮族が襲ってきた時はどこに…」


「知ってるわけないでしょ、私も逃げるのに精いっぱいだったんだから。…あの子、可愛いわよね。知り合いだったの?」


「……お前に関係ない。どういう知り合いだったんだ」


「とりあえず休んでよ。私は逃げも隠れもしないししばらくはルーサー王子の下で働いてるから」


…とことん言うことを聞かない。

そういう感情を覚えたのは久しぶりのことだった。
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