「同じ空の下で…」
静かにその場から離れ、冷蔵庫からビール2つを取出し、またベランダの瞬の横に並ぶと、それを無言で手渡した。
「…おお、ありがと。」
嬉しそうでもあり、少し寂しさを感じさせる笑顔で、瞬はプルタブを起こした。
その様子を見届け、私も同じようにビールを開けると、
「帰国に、乾杯。」
と言って、瞬の缶ビールにコツンと自分のビールをぶつけた。
「…乾杯っ。」
外は少し風があり、心地よい温度だった。
昼間の暑さとは裏腹に、不快指数がさほど高くない。
私の肩を時折かすめる夜風には、虫の鳴き声と共に私の周りを渦巻いてはまた、夜闇と夜の喧噪にかき消されていった。
時折、蚊が私達の周りに引き寄せられるようにやってくる。
「…もう、アメリカに戻るのが…嫌になる。」
「…ん?」
瞬が呟くように言った言葉が良く聞き取れず、静かに聞き返しながら、彼の横顔を見た。
鼻筋がはっきりと通ったその横顔のシルエットに、ほろよいながらに釘づけになる。
「…日本に、残りたいんだよな、正直…。俺さぁ、じいちゃんがあんなになって…半分、ホッとしたような気がして、自分が情けない。最初、アメリカに行けって言われた時、俺は拒否した。だけど、『女』って理由で行きたくないって言ったら、じいちゃんに『岡崎家の恥さらし』と言われてさ…。半ば、意固地になってたのもあるんだ。」