noir papillon
厚い雲の覆う空から零れる小さな雨粒は、風に 吹かれ窓に勢い良く打ち付けられた。
町を歩く人々は色とりどりの傘をさし、前後左右に揺れ 動く。
空から地上を見下ろせば、それはまるで動く絵 画。
暗い紙の上に散りばめられた鮮やかな絵の具の ようだった。
「あぁあ……」
雨に濡れる窓から外を眺めるハルは独り気だる そうな顔をし頬杖をつく。
「最近ご機嫌斜めだね、ハル」
そんな彼に声をかけてきたのはカナメ。
壁に背を預け紅茶を啜る彼は相も変わらず元気である。
「ちょっと色々あってさ……」
「色々ねぇ」
椅子を引いた彼は背もたれを抱くようにして座 りハルを眺める。
そんな彼の視線から逃げるように目を背けるハ ルは憂鬱そうに溜め息を吐いた。
「…此処ってさ、Dクラスのギルドだよな? 」
唐突な質問。
率直な疑問をカナメに投げかける。
「そうだよ?此処は最もレベルの低いギルド 。馬鹿にされ見下され罵られ、誰もが入りたく もない、相手にしたくもない最低最悪のギルド だよ」
自分のギルドをそこまで言うか。
何だか可哀想に思えてくるんだけど…
「その最低最悪のギルドに、何でこんな凄腕 の魔法使いが揃ってるんだよ?」
「ん?何の事?」
「惚けても無駄だ。この目で見て実際に体験 してるんだ。あの2人の桁外れた魔力を……」
既に酔っているシンリと、彼女に絡まれ呆れて いる様子のタクミ。
2人に視線を移したハルは、どこか悲しそうな 瞳をしていた。