noir papillon
憂鬱そうなハルの姿を目に、人の悪いカナメは クスリと笑い更に彼に追い討ちをかける。
「ミヤビは秀才でね、誰もが欲しがる逸材とか──」
「あぁーー!!」
もう聞きたくない。
もう止めて下さいお願いだから。
これ以上聞いて落ち込むのは勘弁だ。
「まぁ彼女も、凄腕の魔法使いだったって訳だよ」
ん?
何故過去形?
だったって、まるで今は違うようなそんな言い方。
疑問を胸に顔を上げると、どこか悲しそうな顔をした彼の姿が目に入る。
「他人を凄いだの強いだの言ってるけど、君だってそうじゃないかハル」
「は?」
表情は一変し、何か企むような笑みを浮かべるカナメ。
嫌な予感に顔をひきつらせると、椅子に座ったまま器用に近寄って来る。
反射的に身を退くも、更に近寄られ意味をなさない。
じっとハルを見つめ何か言いたげな彼だったが、口を開く前に鳴り響く電話の着信音。
二階から聞こえるその音に邪魔され、発せられる筈だった言葉を耳にする事はなかった。