猫 の 帰 る 城
「それがどうしたの」
小夜子が笑った。ふふふと笑って、僕の胸にキスをした。
「だってわたしたち、こんなに合うんだもの」
そのまま僕の上に覆い被さってくる。
細く白い指が伸びてきて、僕の頬を包み込む。
それから息つく暇もないキスをした。
小夜子のキスを受けるとき、僕はいつも疑問に思う。
いったい、世界において誰が最初にこんな行為を始めたのか。
彼女の舌と僕の舌が絡み合う。
唇と唇を重ねるなんて、すごくロマンチックな行為なのに、こんなにいやらしい気持ちになるのだ。
小夜子は唇を離すと、僕の耳元で囁いた。
「今度はわたしがしてあげる」
彼女に他の男がいることはわかっていた。
だから僕は何も望まなかった。
割りきってみると、複雑なことをなしに彼女との関係を続けられるものだ。
むしろ、毎日のように会いキスをしてセックスをするよりも、ブランクがあるからこそ新鮮なのだ。
だらだらとした惰性の関係ではなく、たまに訪れる一瞬の楽しみ。
そう考えていたのだ。
確かに、あの頃の僕は実際にそうであったけれど、それが長く続くなんてことはない。
人間の感情なんて、思いもしないことで、容易に変わってしまう。
そのことを悟ったのは、それから半年ほど経った頃だった。