月下の幻影


「そう、よかった。昨日慌てて片付けたからさ。一応、布団を変えて掃除はしてもらったんだけど、おやじ臭かったらごめん」


 片手で拝むような格好をする和成を見て、月海は不思議そうに首を傾げた。


「どなたか、この部屋をお使いだったんですか?」

「昨日まで私がいたんだよ」

「え?! だって、見たことはありませんけど、この向こうに広くて立派なお部屋があるとお伺いしておりますが……!」


 そう言いながら月海は渡り廊下の向こうを指差した。
 和成は気まずそうに笑う。


「うん。確かにそうなんだけど、広くて立派すぎて、どうも落ち着かなくてね……。私は侍従長から庶民癖の抜けない困った君主だと言われてるんだよ」

「はぁ……」

< 33 / 63 >

この作品をシェア

pagetop