月下の幻影
「身分違いなのはわかっています。あの方に応えてもらおうとは思っていません。でも、私が勝手に想いを寄せるのは自由でしょう?」
塔矢は苛々したように月海を諭す。
「身分をとやかく言ってるんじゃない。さっき言っただろう。あいつは今も紗也様以外の女は眼中にないんだ」
無意識のうちに塔矢が和成をあいつ呼ばわりしている。
素に戻っているということは、それだけ月海を心配しているのだろう。
塔矢は月海を見つめて厳しく言い放った。
「断言してもいい。あいつがおまえに振り向くことは絶対にない。傷が浅いうちに見切りを付けろ」
月海はムッとして立ち上がった。
そこまできっぱり断言されるとかえって闘志が湧いてくる。
本当は密かに想っていようと考えていたが、白黒付けてみたくなった。