月下の幻影


「大恋愛の末に結ばれたと聞いてますが……」

「それはちょっと違うな。殿が一方的に想い続けていただけだ。やっと想いが通じて、結婚の約束をした翌日、先代は戦でお亡くなりになった。お二人が実質、夫婦や恋人同士だった時間は一日にも満たない」

「なんか……切ないですね……」


 そう言って俯いた月海の頭を塔矢はコツンと叩いた。


「こら。おまえが切なくなってるんじゃないだろうな」


 塔矢に指摘され、月海は俯いたまま、みるみる顔を赤くした。
 その様子が紗也への想いに気付いた時の和成にあまりにも酷似していて、塔矢は思わず額に手を当て目を閉じると、空を仰いだ。


「……ったく。俺の選ぶ護衛ときたら、どいつもこいつも想ってもしょうがない相手にばかり惚れる」


 塔矢の言葉をもっともだと思いつつも、月海は俯いたまま力なく反論する。

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