あふれるほどの愛を君に

二日前、サクラさんは仕事で山梨へ出かけた。

7日の夜には戻ると聞いただけで、何時に帰ってくるのかも僕は知らない。

といっても別にケンカをしたわけじゃない。

早ければ日が沈む前に、遅くとも最終にはならないだろうと言っていた。


それに僕も言わなかった。

帰る前に連絡して、といつもなら口にだすことを敢えて伝えなかった。

そんなことわざわざ言わなくとも、きっと連絡してくれるって思っていたから。


でもサクラさんは相当忙しいらしい。

何時発の特急に乗るのか電話一本くれる余裕もないみたいだ。



 駅の構内へ足を踏み入れ、長い通路を歩く。

こんな時間でも人は結構いて、そのほとんどがスーツ姿のサラリーマンらしき人達だった。

エスカレーターに乗って、見ず知らずの他人の群れを眺める。

その中に、背の高いサラリーマンと細身の女性の組み合わせを見つけては、僅かな怒気を含んだ溜め息をついた。


ただ、気になってることがひとつあるだけだった。

………いや、言いかえよう。

気に入らないことがある、たったそれだけのことなんだ。

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