あふれるほどの愛を君に
「じゃね。美人な彼女さんによろしく!」
店先まで見送りに出てくれたサトシが、白い歯を見せて笑う。
返事の代わりに適当に頷いて、そして背中を向け歩きだした。
数歩歩いたところで、なんとなく腕時計を目をやる──21時40分……思っていたより時間は経っていなかった。
きっと一人で飲んでいたからだと思う。二人ならあっという間に終電前の時間になっているのに。
明日も朝は早い。
だから、まっすぐ帰ろうと思った。
帰ろうと思ってた。
何より今夜の僕には、これ以上行くあてなんてなかったから。
なのに、気がつけば僕の足は駅へ向かって歩きだしていた。
酔うほど飲んでもいないアルコールのせいにして、静かな勢いにまかせて駅を目指した。