あふれるほどの愛を君に
その帰り道、星野が静かに切りだした。
「阿久津君、わたし本当はね」
この前言いかけたことだと気づいて、僕は黙って続きを待った。
「本当は、今の自分に満足できてないの。仕事も本音をいえば辞めたいんだ……。わたし向いてないみたい。怒られてばっかりだし、お客さんの相手してても嫌な気持ちになることいっぱいだし……」
乾いた笑い声をもらした星野が僕を見る。
彼女の本音を聞いて胸が苦しくなると同時に、安堵してる自分に気づく。
「勉強は通信制っていっても結構大変。でも頑張って卒業して、それで就職したいの」
力強く語る横顔は、あの頃と変わってない。いつもどんなことにも一生懸命だった星野らしいと思った。
「そっか。俺、応援するよ」
「ありがと。ねぇ、また近いうちに会えないかな。プレゼントも渡したいし」
「いいけど、いま仕事忙しくてさ。星野も今日みたいに休みって中々ないんでしょ?」
「うん……じゃあ再来週の日曜は? 1時に待ち合わせなんてどお?」
日曜の昼間と聞いて、サクラさんの顔が浮かんだ。互いに残業が続いてる中、休日は大事な時間だから。
……だけど。
「うん、わかった」
「じゃあ、また連絡するね」
僕を見上げ返事を待ってる星野を見て断れなくて、そう返した。
そして僕は彼女を駅まで送り、その日は別れた。