猫と隠れ家




「紅茶もお好きのようですが、こちらでは珈琲ばかりですね」
「自宅で楽しんでいます。ここのアールグレイ、私好みの香りで」
「そうでしたか。気に入って頂けて光栄です」

「だってね。気に入った香り付けになかなか出会えなくて。アールグレイと一口に言ってもその会社独自の香り付けがあるんですもの。おなじベルガモットのはずなのに、オレンジぽい香りだけだったり、レモンぽい香りだけだったり。ベルガモットが優しすぎて茶葉の香りの方が強かったり。私、ここのお店のような『パヒューム?』とも思えそうな、本当のベルガモットの香りがする茶葉が好きなの。キツイ匂いって嫌う人もいるかもしれないけど」

「こちらは、うちのオーナーが独自にオーダーをしているものなんですよ」
「え。あの……マスターがオーナーかとずっと」

 すると無精髭の彼がにっこりと笑いながら教えてくれる。

「雇われマスターと言いましょうか。オーナーは別におります。彼も店に来たら淹れたりしているのですが、だいたいが買い付けなどの営業で外を廻っていますので」
「そうでしたか。あの、本当にここのアールグレイが今、一番お気に入りで……」

 この時なんだか、美々は奇妙な気持ちになった。このお気に入りのカフェがあまりにもあまりにも自分に合いすぎていて。

「有り難うございます。オーナーにも伝えておきます」

 会計を済ませると、カウンター奥の厨房から黒髪をひっつめたコックコートの女性が出てきた。

「マスター。こちらよろしかったら、そちらのお馴染み様に」
「そっか。サンキュ」

 彼女が持ってきたのは、透明のセロハンに紺色水玉のリボンでラッピングされた『生チョコ』。それを美々へと差し出してくれた。

「よろしいのですか」
「手作りだから日持ちしないんです。お茶好きのお客様に楽しんで頂けるなら。そちらのアールグレイのお供に是非」

 優しさが滲む大人の女性の微笑み。女性のパティシエ。美々はちょっと羨望の眼差し。心遣いも素敵で……。なんだか子供に返ったような気持ちでそれを受け取った。

「頂きます。きっと今夜中に食べちゃいます」

 マスターとパティシエ姉様が顔を見合わせ、なんだか嬉しそうに微笑み合っていた。

 今日も満足。本当にこの店は美々の秘密の場所。まるで『隠れ家』だった。






 

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