穢れた愛


立ち上がった青柳は
夕夏を見下ろし
再度 同じ言葉を
掛ける


「帰れば」


数十分 座り込んだ路地に
溶け込んでしまった
複雑な心境は失われ


不満を告げる事なく
意外な程 冷静な言葉を
呟く


「財布も携帯も
 家の鍵も
 鞄の中だもん

 帰れないよ」


数秒 壁に凭れ
夕暮れ時の風に
煽られる青柳


躊躇いの言葉が
夕夏の耳に届く


「何食う」


夕夏は青柳を見上げ
同じ質問を返す


「貴方は?」


若干 首を捻る青柳は
眉を寄せ


「冷房が ある店」


微かに夕夏が
笑った



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