穢れた愛


青柳に差し出された
紙袋の中に
女性物の鞄と
白い封筒


「夕夏
 お前の親父に代わる」


山越の目の前に
突き出された
青柳の携帯電話


山越は疑問もなく
携帯電話を受け取り
恥も見栄も何もかもを棄て


「夕夏か!」


静観なロビーに
山越の声が
響き渡った


潤滑する波紋のない
池の水へ
ボートが一艘
静かに浮かぶ


溺れかけた少女を
救う船


山越に背を向け
出入り口へと
歩き出す青柳


「おい!」


山越の呼び止める声も
青柳に届く事なく


紙袋の中
残された一通の
辞表と書かれた封筒が
虚しく青柳の意志を伝え


手の中に残された
青柳の携帯電話から
何年も呼ばれた事のない
夕夏の声が聴こえた


『パパ?』


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