恋の華が舞う季節
私はまた結局、こっちを選んでしまうんだね。


折角掴んだ幸せを、無に返す。


「結衣!」

思いっきり、後ろから抱きしめる。


「行くな! 行くな」


胸が高鳴る。

まだ、こんなにも好きなのに。

どうして?


私は素直になれないの。


「秦――大丈夫。
 きっと、私の事なんか忘れられる。

 “こんな事もあったな”て、思い出の1つになれるから――」



「そんなの都合が良すぎるだろ?
 結衣は、俺の事、どう思ってるんだ?!

 建前や、お世辞じゃなくて、本当の事、教えてくれ!」



――本当の事……



ドクン……


心臓の音が聞こえる。



本当は、まだ……



「嫌いよ。秦って、騙されやすいのね。
 秦が本気だから、ちょっとのってあげただけよ」



最低だ、私――!



秦が段々震え出す。


その姿が見ていられなくなって、私は屋上から、逃げるようにして、走り去った。

< 108 / 254 >

この作品をシェア

pagetop