家庭*恋*師

彼の有理化

通常の授業が終わった放課後。

南は担任との話し合いを終え、彼女のように部活動をしていない他の生徒より、一足遅く寮に向かっていた。

新学期とはいえ、特別受験枠を合格した2年からの転入、しかも女子生徒ということで、南はクラスの注目を集めた。進学校特有のピリピリとした競争心丸出しの空気に混じった好奇心。周りの目をあまり気にしない南だったが、それを全校生徒から受けているような気にさせられ、少し疲れていた。

いや、厳密にいえば全校生徒ではないのだろう。自分の幼馴染達と、そして一日中探しても見つからなかった新しいルームメイトのことを思い出す。

彼のクラスは南からすれば一番遠くに位置する場所にあり、移動でもそうそう立ち寄ることはない。昼休み、学園探検にかこつけ廊下を徘徊してみたも、教室に彼の姿はなかった。サボりがち、というのは本当だったようだ。

なので、これから会うであろう新しいルームメイトの顔は、未だ名簿に載っている一年前のものだけ。

背は伸びたのだろうか、顔立ちは変わったのだろうか、実物もあんなにやる気がないのだろうか。

そんな想像を膨らましていれば、少し迷いながらの道のりも早く、気付けば部屋の前。

ネームプレートにはもうご丁寧に自分の名前が書いてある。理事長のつては伊達でない。

「…うわ、なんか急に緊張してきた…」

ヘタをすれば、手にかく汗でドアノブにすべらしそうなほど。

深呼吸ひとつ分気持ちを落ち着け、扉を押した。
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