家庭*恋*師
「お邪魔しまーす」

これから自分の部屋になる場所に入るには場違いな挨拶をして、頭だけ覗き込む様子はどこかおどおどとしている。

だが、小動物のように部屋を見渡しても、人の気配はなかった。あるのは、寮にしては家具の揃いがなっている2人部屋。ドアから見て左側のベッドの脇には、実家から送った自分の荷物が積まれていた。見慣れた私物を見て、少し落ち着いたのか安堵の息が漏れた。

「…なんだ。いないんじゃん。緊張して損した」

ドアから離れ、自分の新しい机に学校鞄を下ろし、再度改めて部屋を見る。2人部屋にたった一人しか入っていなかったのだから物が少ないのは当たり前だが、それにしてもどこか寂しい部屋だ。

異性の部屋に入ったのは、幼馴染以外ではこれが初めて。見知った彼らの部屋と比べても、男子高校生にしては落ち着いている。壁にはポスターもなく、最低限の物以外は置いていない。

だが、本棚の上のコンポやパソコン、ベッドのシーツまでもいちいちどこか高価そうなもの。

お金持ちのお坊ちゃんというのも頷ける。

そして、進学校の生徒としてあるべき参考本などがなく、これから先が思いやられた。

だがそれも、部屋の主がいない今はいらぬ心配というもの。

「まあ、じゃあとりあえず荷物片付けるか…」

まずは服の入っている段ボールを開け、クローゼットに移し始めた。
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