家庭*恋*師
「…なんでお前がここに居るんだ」

木張りの部屋によく響くドスのきいた低い声と、それに見合う鋭い目線。そんな合わせ技をかけられれば並の女子生徒ならば目を潤ませるところなのだが、佐久良南(さくら みなみ)はそんな相手に負けず劣らず、華奢な容姿からは想像できないほどの睨みをきかせる。

「私から逃げられると思ってんの?バカズキ」
「わけのわかんねーあだ名はやめろ」
「俺は好きだな、その名前」

バカズキと呼ばれた切れ長の目をした少年の名は、土屋一樹(つちや かずき)

彼を更に苛立たせるようなことを言い出した美少年の前園秀(まえぞの しゅう)

そして、そんな三人の生徒を優しく見守るのは、ただ一人その部屋ーー理事長室の机に座る男性。

「まぁまぁ、カズも秀も落ち着け。俺は南のネーミングセンスに驚いたけどな。まるで一昔前の名曲のタイトルみたいでかっこいいじゃないか」

素っ頓狂でバカなことを言い出したが、この恰幅のいい彼、遠山豪(とうやま ごう)は仮にもこの三人の通う高校の若き理事長だ。

この四人がこのように同じ部屋で話をするのは、今日でなんと2年ぶり。だが、その話は少し置いておくことにしよう。

「んなこと言ってる場合じゃねーだろ遠山さん!あんたこのこと知ってたのか!?」
「いや、知ってたっていうか…」
「遠山さん!カズのことは俺に任せろとか言ってたくせに、どーなってんの!?」
「いや、そうは言ったけど…」

ソファから立ち上がり、豪の机に同時に拳を下し抗議をしはじめる。カズと南の両人に詰め寄られ、すっかりタジタジで理事長の威厳もなんのその。それもそのはず、幼い頃から顔見知りの豪は、この二人に一度たりとも敵ったことなどないのだ。

「なんだよこいつのこの格好はッ!」
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