家庭*恋*師

2展開の距離

負けず嫌いも、ここまで来るとある意味病気かもしれない。売り言葉に買い言葉、売られた喧嘩は買うというガキ大将根性だ。

だがお互い引くに引くことができない。次の言葉が見つからないまま、ただにらみ合っていた。

「…はぁ」

沈黙を破ったのは、皓太朗の疲れたような溜息。自分で巻いた種だというのに、まるで他人事のように頭をかいて椅子に腰掛ける。

「文句ないって…南ちゃん、自分の言ってることわかってんの?」

その言葉のトーンに、ピク、と眉をひそめる。

それは、子供の頃から、幼馴染達が自分を仲間外れにする時と同じもの。

自分は女だから。小柄だから。子供だから。何かに理由をつけて、自分が出来て出来ないことを相手に決めつけられるのを、南はひどく嫌っていた。

「…わかってるっつの」
「まぁ、わかってたら男と同室で無防備にパンツ丸だしで寝てるわけねーか」
「なっ…!」
「寝る時のパジャマ短パンだろ?寝相すげーから、はみ出てる」
「あんたのこと男として見てないから、心配することなんてないもん!」
「へぇ?」

わざと、自分の反応を見る為に言われているというのはわかる。それでも、顔が真っ赤になるのは免れるものではない。

「じゃあ、証明してよ」

座ったまま、南の方へと身体を向ける皓太朗。そして、両手を彼女に差し出す。まるで、だっこをせがむ子供のように。

「…何」
「条件その八。勉強中、南は皓太朗の膝の上で教えること」
「はぁ!?」
「男として意識してねーんだろ?だったら犬と戯れてんのと一緒じゃん。オレ、人肌がないと集中できない」

そうしれっと言い放ち、笑顔を浮かべる。それは、挑戦にも似た。

「…今日はあと10p進めるからね」
「いーよ」

やけに上機嫌な皓太朗を殴りたくなるも、それを必死に抑える。2つの新しい条件を設けた後、授業を再開した。
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