ツラの皮



一頻り笑った麻生は、何かを思い出したらしく「そういえばさぁ」と話をさっくり切り替えた。



「今度の仕事なんだけど、…聞いた?」


「んあ?尾瀬監督の映画だろ。」






この世界に入ったばかりの新米の頃、二人揃って雑用として扱き使われたことのある監督だ。


声を荒げることはないが、かなり厳しい人だ。


自分の中に確たるイメージがあって、そこに到達するまで何度だってリテイクを繰り返す。


ダメだしは役者の演技ばかりではなく、小道具から衣装、ほんの僅かなアイシャドウの捩れにまで及ぶ。


どれほど準備万端に整えておいたって『うん。これじゃない。』の一言で、どこまでだって走らされる。




だが、クランクアップの達成感は他の仕事の比ではない。


尾瀬監督の作品は素晴らしい。






その監督がタチバナなんかと気が合うというのは納得しがたいが……。



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