蜜恋の行方—上司と甘い恋をもう一度—
それは、また目を逸らされると思ったから。
そんな私に、課長は少し驚いたような顔をしていた。
私がおおげさに怖がってしまったから、それに驚いたのかもしれない。
いつ目を逸らさせるのか分からず怖くなって、自分から俯いて課長の視線から逃れる。
そうすれば、課長は横を素通りして行くと思ったから。
少なくとも、ここ数日の課長の行動から推測すれば、そうするハズだったから。
だけど、階段を下りてきた課長は、私の前で止まった。
そして、覗き込むようにして私を見る。
「……吉野? その顔、どうした」
今週に入って初めての私語だった。
顔ってなんの事だろう、と考えてから、昨日泣きはらした上に眠れなかった事を思い出す。
考えてみれば、課長は私から目を逸らしてばかりだったから、きちんと顔を見るのは今日初めてだったのかもしれない。