蜜恋の行方—上司と甘い恋をもう一度—


それは、また目を逸らされると思ったから。

そんな私に、課長は少し驚いたような顔をしていた。
私がおおげさに怖がってしまったから、それに驚いたのかもしれない。

いつ目を逸らさせるのか分からず怖くなって、自分から俯いて課長の視線から逃れる。
そうすれば、課長は横を素通りして行くと思ったから。

少なくとも、ここ数日の課長の行動から推測すれば、そうするハズだったから。

だけど、階段を下りてきた課長は、私の前で止まった。
そして、覗き込むようにして私を見る。

「……吉野? その顔、どうした」

今週に入って初めての私語だった。

顔ってなんの事だろう、と考えてから、昨日泣きはらした上に眠れなかった事を思い出す。

考えてみれば、課長は私から目を逸らしてばかりだったから、きちんと顔を見るのは今日初めてだったのかもしれない。



< 146 / 225 >

この作品をシェア

pagetop