蜜恋の行方—上司と甘い恋をもう一度—


トイレから出た後、少し外の風に当たりたくなってお店から一歩出たところで、立ち止まる。
お店の前で携帯を耳に当てている課長がいたから。

電話が終わったらしく、携帯を下ろして胸ポケットに入れた課長に、咄嗟にお店の中に引き返そうとしたけど目が合ってしまって動けなくなる。

このまま戻ったら失礼かな、とか、でも課長だって散々避けてるんだから、私が引き返した方が助かるかもしれない、とか。
色んな考えがぐるぐる回る。

立ち止まったまま動けずにいる私を見ながら、課長は「こんな時まで仕事の電話」と少しだけ微笑む。

その顔に胸が締め付けられながら、目を逸らした。

「今日は、すみませんでした」

出入り口から少し離れた場所に立って謝ると、課長はしばらく黙っていた。
それからふっと笑う。

「謝るって事は、俺が吉野とふたりきりだと思ってきたって分かってたって事か」



< 156 / 225 >

この作品をシェア

pagetop