たとえ愛なんてなかったとしても
「エリック、なにしてるの?
撮影始まるわよ」



どれくらいの時間が過ぎたのか分からないが、きっとほんの少しの時間だったのだろう。
 
キャシーが呼びにくるまで、俺はただその場に立ち尽くしていた。



「ああ、すぐに行く」


「そう?それならいいけど......」



早くいこう、と俺に背を向けたキャシーを後ろから強く抱きしめる。

キャシーはそんな俺に対し何も言わずに、俺の手の上に、そっと自分の手を重ねた。



「キャシー、俺は間違ってない。
誰も間違ってるなんて、言えないはずだ」



誰かの生き方に間違ってるも正しいもない。


たとえ誰かの心を踏みにじったとしても。
自分の本心を見て見ぬ振りをしたとしても。


それでも、俺の生き方が罪だと言える人間は誰もいない。
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