聴かせて、天辺の青

「何食べる? ランチにぎりでええか?」



和田さんが写真入りのメニューを指差した。にぎり十貫に魚の赤だしがついて九百円というおすすめメニューだ。



「うん、それにする」



全員一致で注文を済ませると、何事もなかったようにたわいの無い会話を交わし始めた。誰も若い男女のことなど気にも留めない様子で。



そっと耳を澄ましたら、あちらのテーブルは沈黙のまま。



私たちの登場が会話を妨げてしまったことに少しだけ罪悪を感じて胸が疼いてしまう。気になりつつも見ないように努めるのは正直言って辛い。



やがてテーブル並んだ寿司の新鮮で肉厚なネタに皆が目を輝かせる。早速頬張り始めるとテーブルは急に静かになった。



黙々と食べる私たちのテーブルの横を、男女が通り過ぎていく。足音を立てないように細心の注意を払っているように。



「失礼します」とか細い声で告げた二人は、和田さんたちに頭を下げて店を出ていく。



なんだか急いで食べて、慌てて出ていったように思えた。まるで逃げるように。
そう思うと気になってしまって、尋ねずにはいられない。








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