聴かせて、天辺の青
やがて黒い影の輪郭が露わになってくる。
ちょうど斜め後ろから覗いた顔は、若い男性のようだった。歳は私と変わらないぐらいの細身の男性。
大きな溜め息を吐いて空を仰いだ彼の髪を潮風がそよがせて、黒いジャケットに絡みつく。
風が通り過ぎた後、彼は再び海原へと視線を落とした。
あと数メートルというところまで近づいた私には、まったく気付かない様子。
そっと見回してみたけど、堤防の先には私と彼以外に人の姿は見当たらない。漁船が帰ってくる気配もまだない。
一筋向こうの国道を走りぬけていく車の音が、聴こえてくるだけ。
やっぱり……
十分にヤバそうな雰囲気を纏っている。
予感は確信へと変わっていく。
私は足を止めた。
いったい何と言って声をかければいいんだろう、と首を傾げる。
まずは挨拶?
どうしたの?
何をしているの?
いろいろと思い浮かべた言葉は、どれもしっくり来なくて……私はただ、腕を組むしかない。