聴かせて、天辺の青
「河村さん、ちょっといいですか?」
「どうしたの?」
河村さんは不思議そうな顔をしながらも、椅子を引きずって私に近づき耳を傾けてくれる。
「ここで働きたいって人がいるんですが、無理ですよね?」
無理だという答えを前提に尋ねた。今は求人募集もしていないし、繁忙期でもないから人手は十分足りている。
河村さんは遠い目をして口をを噤んだ。何かを手繰り寄せて考えている風に目を細める。
やっぱり、ダメ?
と思っていたら、河村さんが目を見開いた。
「瑞香ちゃんの知り合い?」
「いや、知り合いというか、おばちゃんの宿に泊まってるお客さんが仕事探してるらしくて、聞いてほしいって言われたから」
「そう、男の人?」
「はい、男の人です。年は……たぶん私と同じくらいだと思います」
「うん、いいよ。明日一緒に連れてきてよ、話聞いてみたいから。大丈夫かな?」
「え? いいんですか?」
「うん、一応会ってみて決める」
じっと私を見つめていた大きな目が、ゆるりと弧を描く。
河村さん、会うとは言ってるけど決めてしまうかもしれない。