ねえちゃん
「ねえちゃん、パン屋の女将になるの?」
野島さんが帰った後、俺はねえちゃんの部屋に行って聞いた。
「女将かどうかは分からないけど、パン屋の女房にはなるわね」
ねえちゃんは愛用の小さな座椅子に座って化粧を落としながら言った。
いつものよく見慣れた光景。ねえちゃんは家に居る時はすぐに化粧を落としたがるから。
「ねえちゃんにパン屋なんか務まるのかよ。パン屋って朝早いんだろ。ねえちゃん寝坊ばっかするクセに」
俺はベッドに寄り掛かりながらドサリとねえちゃんの隣に腰掛けた。
「頑張るしかないわよ。だって好きになった人がパン屋だったんだもん」
マスカラを落としながらそう言ったねえちゃんの姿はマヌケで、でもどうしてか格好悪いとは思わなかった。