二面相
兄の ビールを持つ手が止まる。

私は 黙って 頷いた。



「なんでもっと早く、きちんと言ってやらん。思春期は 何かと難しい時期だぞ」


兄はそう言うが、いつ話したって、いいタイミングなんて あるわけない。



大樹の父親は、生きているといえば 生きているが、大樹を授かってからは、音信不通だった。


彼は大樹を産んだことも、授かったことすら、知らないだろう。


当時、彼は 一つの夢に 挫折し、やっと次の夢を見つけたばかり。



私は 彼を本気で好きだったから、彼のせっかく見つけた夢を 途中で諦めさせることはできなかった。


彼の遺伝子を受け継ぐ子供が お腹にいるというだけで、私には充分過ぎた。


子供だった私は、そんな 自己満足に過ぎない意識で大樹を産んだのだ。

< 38 / 42 >

この作品をシェア

pagetop