【続】隣の家の四兄弟
少し昔の自分を思い出してると、神妙な面持ちで私を見つめてるチハルの顔に気付いてハッとした。
「あ!いや!別にあれだよ?『ダメ』って言われたこともないし。ただ、私が興味なかっただけで」
あっ。〝興味ない〟とかって、チハルに向かって言ってるように聞こえちゃったかな?
そうじゃないんだけど!
慌てて説明を補足したくても、なにをどうすればいいのかわかんなんくてプチパニック。
「うん。ダイジョウブ。じゃーさ。明日、現場に興味持てなさそうだったら、ぼくだけ見ててよ」
「へっ……」
「ね」
自信に満ちたような瞳。
その表情は、さっきまでのチハルとは全く異なる男の人。
その綺麗な、色素の薄い茶の瞳に吸い込まれる感覚に、まったく身動きが出来なくなる。
「きっと、ユウウツな気持ち、少しは紛れるよ」
甘い甘い、砂糖菓子のようなふわりとした笑顔に、優しすぎる言葉。
ついそれにそそのかされるように、現状の問題を忘れてしまいそうになる。
『俺の隣にいろ』
不意に頭の奥で聞こえた。
憎たらしくて、掴みどころがなくて、いっつも大事なことを口にしない男。
その男が、初めて口にした言葉が。
「――あっ、チハル!私、本当にちょっと眠いし、休むね!明日、考えとくから!」
一方的に言葉を投げかけて、それから足早に自分の部屋へと戻る。
チハルのことを振り返ることはできなかった。
今、振り返ったら、チハルはそういう意味で私に優しくしてくれてるんじゃない。妹みたいに思ってのことだってわかっていても、居心地の良さの誘惑に負けて、甘えてしまいそうだったから。