【続】隣の家の四兄弟
「で?」
聖二が自分ちと比べて若干気を遣うようにして、ソファに掛けた。
私はその姿を対面キッチンからチラチラ見ながら、じゃがいもを茹でる。
「えぇと……な、なんだっけ?」
ほとんど両親が家を開けている我が家は、私がご飯を作ったりしているから料理はそれなりに慣れたもの。
けど、今は慣れてるはずの料理がままならない。
だって、聖二と二人きりなんだもん。
だから、頭が上手く回らないと言うか…聖二の言ってることがすぐに思い出せない。
「…お前…さっきの涙はなんだっていうんだ」
「はっ!」
聖二の呆れ口調は今日で何度目だろう。
でも、確かに…。
あの涙を一瞬でも忘れる自分が情けない。
けど、いい訳をするなら、忘れさせた張本人が聖二なんだけど。
「あ、あの…前にも綾瀬家で、ポテトサラダを作ったことがあって…」
あの時って、聖二も食べたんだっけ?
なんだか頻繁に出入りしてるから、忘れちゃった。
「それ、食べた孝四郎くんが、言ったの」
「孝四郎が? なにを」
「『お母さんのポテサラに似てる』って……」
聖二以外のみんなとは、ちょっとだけだけど、両親の話題に触れたことはある。
けど、聖二とはそういう話、多分したことない。
こんな話をしたら、聖二はどういう反応をするんだろうか――。
「それで、さっきチハルが言ったの」
「なんて」
「浩一さんのお母さんのポテサラが、久々に食べたい、って」
少し間を置いて、聖二がソファの背もたれに、ボスっと寄りかかった。
そして宙を見ながら言う。
「なるほどな…だから“大事な役目”ってことか」
それから、ぐつぐつと沸騰するお鍋の音だけが二人の間に響く。
聖二にとってもかけがえのない両親だったはず。
こういう話をしたら、必然的に思い出すよね。
聖二は今、何を思い出して、何を思ってるのかな――。