【続】隣の家の四兄弟
「――――あった!」
家に入って、直行したのはキッチン。
冷蔵庫を開けて確認すると、奇跡的にあったじゃがいも。
その私の声を聞いた聖二は、リビングに立ったまま携帯を出す。
「ああ、兄貴? メシ作った? いや、コイツ…美佳が、後でおかず届けるって。そう、ポテトサラダ」
私は思わず手にしたじゃがいもを転がしちゃった。
だ、だって。今……。今、なんて言った?
聖二が『ポテトサラダ』なんて単語を発音するのも珍しくて笑っちゃう。っていうのはおいといて。
み、『美佳』って言った!! 言ったよね…?
「じゃ」っとあっさり電話を終えた聖二を、私は固まった状態のまま見ていた。
そんな私の視線にすぐに気がついた聖二は、怪訝そうな顔をして問う。
「…なに」
い、いやいや、いやいやいやいや!!
だ、大事件! 今まで名前でなんて呼んでもらったことない!
もしかして、綾瀬家ではちゃんと名前言ってるのかな?
でも、聖二なら、変わらずに『あいつ』とか言ってそうだし。現に一緒に居る時は『おまえ』とかしか記憶にないし!
聖二の言葉に私は未だに硬直して、何も言わないでいると、さらに驚くことが起きる。
「あぁ。番号か? お前の携帯ちょっと貸せよ」
けっ…携帯の番号まで!!
まさか、こんなにさらりと教えて貰えるとは…!!
呆然としていると、聖二が眉間にしわを寄せて近づいてくる。
「おい。早く出せ」
「あ、あっ、はい!」
ポケットから慌てて差し出した携帯を、聖二は受け取ると、私の携帯を操作する。
そして、聖二の携帯の着信音が短く鳴ると、すぐに携帯を返された。
「あ…アドレスは……」
「俺、メールほとんどしない」
「き、機械関係、仕事上詳しいのに…?」
「使い方がわかんないとでも思ってンの?」
ギロリと鋭い目を向けられた私は委縮する。
使い方がわからないだなんて思う訳ない。ただ、そういうの得意なら、苦じゃないと思ったんだもん。
ちょっと言葉、間違ったかもしれないけどさ。
「――まぁ、気が向いたら返事くらいする」
ど、どうしたの、聖二!!
今日の聖二はまるで別人だよ!
聖二を瞬きしないで見ている間に、私はじゃがいもをもういっこ落としてた。