製菓男子。
「わりぃ」


吐息と一緒に吐き出した兄の言葉と、ゆるんだ腕。
兄はおもむろに立ち上がって、ゆらゆら左右に揺れながらリビングに行った。


(熱のせいで、幻覚を見たのかな?)


身支度を整えて兄のあとを追った。
兄は普段のようにソファーに身を沈めていたけれど、瞳は重く閉じられていた。


(弱っている隙に、おとうさんが帰ってくるといいのに)


父は妻帯者ではないから「浮気」をしているわけではないけれど、兄にとって父の妻は自分を産んだ母で、それ以外は全て「浮気」にあたる。
わたしもその浮気相手の娘であるし、あまり兄にすかれていないことを知っている。
わたしの母は、未婚の母を選んだくせにわたしを産んですぐに捨てたようで、兄の母に育てられることになった。
だから兄は同情的にわたしを妹にしてくれている。


(わたしの居場所は、ここしかなかったから―――)
< 122 / 236 >

この作品をシェア

pagetop