製菓男子。
兄の前髪は、汗で張りついている。
それを制服のポケットに入れていたハンカチで拭う。


(今さらわたし、制服姿のままだって気づいたよ)


滅多に風邪を引く兄ではないから、わたしも慌てていたのかもしれない。


「兄さんハーゲンダッツ食べる? すきでしょ、クッキー&クリーム」


無理やり明るく装った声が功を奏してか、緞帳のように閉ざされた瞳が、ゆっくりと開いていく。
それはまるでこれから演劇がはじまるような、生気溢れるような一瞬だった。


「食べさせろ」


幽霊のような実体のない弱々しさを放っていた兄の口調が、まるで世界を滅亡させんとする悪の組織のボスのような声になった。
声に張りを取り戻した兄は、えらそうに腕を組んで、わたしを見上げている。


「見てのとおりの有様なンだ、スプーンなンか持てるかっ」


あとはもう普段どおりのオレさま兄貴で、「ぶどうパンが食べたい」だの「テレビのリモコン取って来い」だの「部屋までオレを運べ」だの終始命令口調。
「わたしはメイドじゃないっ!」と半ギレ状態で言ってみると「どう見たってその格好メイドだろ?」と、「お前ばか?」みたいな口調で言いやがる。


(メイドじゃないよ、うちの制服だっつーの!)
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