製菓男子。
といったように金銭授受の際にふたりを詮索するような会話を多くする。
会話スキルが富士山の二合目あたりのわたしが、ここ数週間で飛躍的に答えられるようになったのは、とあるマニュアルのお陰だったりする。


『質疑応答マニュアル(アンティエアー編)』


コピー用紙二十枚からなるそのマニュアルは全て、荒川さんが美容師業の片手間で作ってくれた。
これと似たものが荒川さんの働く美容院にもあるという。


荒川さんは太陽のような輝く髪色のせいでホスト風に見えなくもない外見をしているのだけれど、某国立大学に入学できるくらいの頭脳を持っていて、けれどどういうわけだか中退して美容専門学校に通いなおすという、周囲の期待をことごとくがっかりさせた人なのだそうだ。


(兄さんと荒川さんて中学が一緒で、高校は確か別々だったんだよね)


荒川さんは「資料作りは朝飯前」と邪悪な笑顔を見せていた。


(きっとその見返りとしてなにかを企んでいるはずだ)


平日はほぼそのマニュアルどおりでなんとか会話スキルが富士山の五合目くらいまでには到達できる。
けれど休日は、まったくもってそうはいかない。
バイオリズムは着実に月曜日に向かって下降していっているようで、イレギュラーが多くて泣きそうになる。


携帯電話で店内を撮影しているお客さま、あからさまに万引きをしようとするお客さま。


注意をするのは苦手で、見かけるとすぐに塩谷さんを呼んで代わってもらう。
それらの女性は塩谷さんと会話をするきっかけを探しているようでもあって、叱られているのにどこかうれしそうだ。
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