製菓男子。
いつのまにか十三時を回っていたので、慌てて兄の部屋をノックした。
反応がなかったので勝手に入ることにする。


(よかった。これで言いわけが立つ)


亭主関白振りを今から発揮する兄になにか言われたら「十二時に一度来たんだけど、寝てたみたいだから」と言ってやろう。
この技は別名“誤魔化す”とも言うらしいけど。


(兄さん、時間にルーズな人間苦手だからなぁ。自分に関してはおおざっぱなのに、他人に厳しいっていう最低っぷりなんだけどさ―――それにしても相変わらず汚い)


兄の部屋は掃除をしてもしても、床に物がなくならない。
脱いだ衣類、平積みにされているジャンプ、読みかけの経済誌、よくわからない紙切れ。
そんなものが散乱している。
ひとまずうどんは机に非難しておくことにする。


「兄さん、おはよう」


気だるげに半身を起こした兄の額にはひえピタが貼ってある。
無骨な兄の顔にはそれが不釣合いで、なんともかわいらしい。
食べる前に体温を測らせると、まだ三十八度はあった。


「夕べより下がったね」


体温計を兄の手に触れないように受け取ってケースにしまう。


「食欲はありますか?」


兄は自分のおなかに手を当てて考えている。
ゴリラのくせに、子リスみたいなどこか憎めない仕草だ。


(無防備な子供みたい)


滅多に病気にならない兄だから、「熱が出るとこうなる」と脳内メモに記録しておこう。
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