製菓男子。
「朝ごはん食べてないんだから、お昼ご飯は食べましょ? 食べないと体力つかないからよくならないと思うし、薬も飲めないし」


うどんなんだけどどうかなと続けると、兄はじっとわたしを見た。


「たべさせてくれねーの?」


兄の瞳はうっすら涙の膜が貼ってあるようでつやつや光っていた。
頬も熟したりんごのように赤く潤っている。
けれど唇だけは、ささくれのように乾燥していた。
その唇から発せられた声は、茹だるように掠れている。
その上しっとり汗をかいているうなじから薫る匂いはまるで媚薬のようで、心臓がなぜかどきどきしてくる。


(色気とかよくわかんないけど、たぶんこういうことなんだろうな)


「そういうことは、わたしの役目じゃないと思うよ」
「どうして?」
「こういうのは、彼女さんにやってもらえばいいと思う」
「いないから。おまえにやってもらうっていう発想はねーの?」


体育会系でありながら細身な兄は、女性を取っ替え引っ替えしている父と姿がよく似ている。


(あるわけないじゃん)


そう思っているうちに、わたしの視界はいつのまにか反転していて、兄の顔がわたしを見下ろし、その先に天井が見える。


(押し倒されてる?)


前腕をベッドに括りつけるように掴まれたせいで、身動きさえも取れない。
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